肩こりの奥にあったものと向き合えた日

いつもの肩こり、今回は少し違った。肩甲骨の奥が重くて、首も回らない。
それでも推し活は楽しみたい——。32歳OL真帆さんが、整体との出会いで軽やかさを取り戻す予祝的ストーリー。
電車の中でもう限界だった朝
5月の新緑がまぶしい朝。窓から差し込む日差しが気持ちよくて、思わず深呼吸したくなる季節。
なのに、山口真帆さん(32歳)は、電車の吊り革を握る手に力が入らないほど、肩の重みにうんざりしていた。
「また今日も…」
座れない朝のラッシュ。ドア付近で立っているだけでも肩甲骨の奥がうずいてくる。ジンと響くような、奥に居座る塊のような違和感。
長時間のデスクワーク、パソコン画面をのぞきこむ前傾姿勢、癖になった猫背——思い当たる原因は多すぎた。
1年以上前から感じていた肩こり。たまに頭痛になることもあったけれど、いつも「一晩寝れば何とかなる」でやり過ごしてきた。
でも、ここ最近は違う。特に右肩の肩甲骨あたりが重たく、首を動かすたびに詰まるような感じ。腕を後ろに回すのも辛くなっていた。
「そろそろ、本気で何か手を打たなきゃかも…」
「あの整体、私ほんとに助かったのよ」
ランチのあと、オフィス近くのベンチでお弁当を広げながら、同僚の美佐子さんに何気なく打ち明けた。
「最近さ、肩こりがひどくて…肩甲骨のあたりが固まってる感じ。前は寝れば治ってたのに、最近はずっと残ってて…」
すると美佐子さんが「分かる分かる!」と身を乗り出してきた。
「私も去年そうだったのよ。肩がガッチガチで、ちょっとパソコンに向かうだけで首の付け根がズーンと重くなって、ひどいときは目の奥がズキズキして頭痛もひどくて…。市販の痛み止めを飲んでもその場しのぎって感じで、結局またすぐ痛くなるの」
真帆さんが「それ、分かる…」と苦笑すると、美佐子さんは続けた。
「でね、そんなときに、別の友達が“ここいいよ”って教えてくれた整体に、ダメ元で行ってみたの。そしたらさ、初回で『うわ、なにこれ』ってくらい体が軽くなって、なんか目も開きやすくなった気がしたの」
彼女は当時の様子を笑いながら話してくれたけど、その表情には“ほんとに救われた”という実感がにじんでいて、真帆さんの心にもじわっと響いてきた。
「初めて受けたときはビックリしたよ。肩だけじゃなくて背中とか、腕の付け根とか、触れられてる場所全部に『あ、ここだ…!』っていう感じがあってさ」
「へえ…そんなに違うんだ」
「違う違う。『肩が悪いんじゃなくて、肩の奥にある筋肉たちが頑張りすぎてるんです』って言われたの。納得だったよ。でね、通ってたら、肩こりも頭痛もなくなってきて…」
「どこだっけ、それ…?」
「あー、もとまち整体院ってとこ。石川町駅からすぐのところ。予約も取りやすかったし、先生も話しやすくてよかったよ」
やってみよう、の一歩
その日の夕方、真帆さんはスマホで石川町のもとまち整体院を検索していた。
口コミも良好で、施術内容の説明もわかりやすかった。思い切って、空いている日時にネット予約を入れた。
そして数日後、緊張と期待が入り混じるなか、初めての整体施術の日を迎えた。
受付を済ませて案内された施術スペースは、明るくて清潔感があり、観葉植物がさりげなく置かれていて落ち着いた雰囲気だった。
施術者は穏やかな口調で迎えてくれ、真帆さんの緊張も少し和らいだ。
カウンセリングでは、肩こりの場所、痛みの出方、生活スタイルや姿勢のクセなどを丁寧に聞き取ってくれた。
「肩だけでなく、背中や腕の筋肉にもだいぶ負担がかかっているようですね。特に肩甲骨の内側、この辺りがかなり張ってます」
初めて味わった“奥に届く”感覚
ベッドにうつ伏せになると、まずは背中からやさしく触れていく手のひら。
やがて、ぐっとピンポイントに深く押し込まれる感覚に変わった。
「うわっ、そこ…すごい」
真帆さんは思わず声が漏れた。
肩甲骨の内側、腕の付け根に近い部分。自分では届かない、マッサージでも触れられたことのない場所。
「ここ、だいぶ硬いですね。少し響くかもしれませんが、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です…なんか、効いてる気がします」
まさに、内側に張りついていた“凝りの芯”が剥がれていくような感覚。
呼吸が自然に深くなって、肩の力が抜けていく。
「体がこんなに軽くなるなんて…」
施術が終わった後、真帆さんは鏡の前で肩を回してみて驚いた。
「あれ、前よりもっと軽い…」
通うたびに、施術のあとに体が軽くなる感覚がある。
行く前は少し億劫な気持ちがあるときもあるけれど、帰るころには「また来てよかったな」と思えている。
その実感があるからこそ、通うこと自体が少しずつ楽しみにもなってきていた。
「うわ、後ろまでちゃんと回る…」
肩が軽い。
首が動かしやすい。
少し先の自分を想像してみる
帰り道、駅までの道すがら、真帆さんは自然と背筋を伸ばして歩いていた。
「これなら、またライブで思いっきり盛り上がれそう」
ふと、そんな言葉が頭に浮かぶ。
最近は推しのライブがあっても、肩がつらくて本気で楽しめなかった。
じっと立っているのもつらい日もあって、座席に頼るしかなかった。
でも今日は違う。肩が軽い。自然に腕が振れる。
肩がラクになるって、こんなにも気持ちが変わるのか——。
いつもは重だるい疲労を引きずっていた帰宅時間も、今日はどこか弾むような足取りだった。目に映る景色さえ、ほんの少し明るく感じる。
「行きたかったカフェ、今度は歩いて行ってみようかな」
「それから、しばらく休んでた資格の勉強も、また始めてみようかな…」
「推しの遠征ついでに、気になってた雑貨屋さんも巡ってみたいな」
そんなふうに、やりたいことが次々と浮かんできた。
不思議と、それらがただの“願望”ではなく、“ちょっとがんばればできそうなこと”として感じられた。
ちょっと先の未来を、ちょっとだけ先に味わってみる。
少し先の自分が微笑んでいる姿を想像してみる。
その小さな想像が、きっと今の自分を支えてくれる気がした。
そして、真帆さんは小さく深呼吸して、まっすぐ前を見て歩き始めた。