ぎっくり腰が教えてくれた、未来の自分

動けなくなった朝に
朝、出勤前。靴下を履こうと、ほんの少し前かがみになった瞬間だった。
「うっ…!」
腰の奥に電気が走り、思わずその場に倒れ込む。
痛みと冷や汗。しばらくは動くことさえできなかった。
46歳。
IT企業のプロジェクトマネージャーとして働く村瀬祐一(仮名)さんにとって、それは人生で初めての“ぎっくり腰”だった。
「まさか自分が、こんなことで…」
多忙な日々、連日の残業、在宅勤務での長時間のデスクワーク。
運動らしい運動はここ数年まともにしていない。
だがそれでも、まだ自分は動けると思っていた。
——ぎっくり腰になるまでは。
失って、初めて見えるもの
病院での診断は「急性腰痛症」。
湿布と痛み止めを処方され、安静を勧められたものの、じっと横になっている時間は、逆にいろいろと考えるきっかけになった。
最初はただ「早く治れ」と願うばかりだったが、やがて村瀬さんの中に、過去の自分を振り返るような気持ちが芽生えていく。
「朝から晩までパソコンに向かって、食事もデリバリー、運動ゼロ…何やってたんだ、俺」
体が自由に動かないことのもどかしさ。
家族の声が聞こえても、ソファから動けない自分が情けなく思えた。
「健康って、ほんとうにありがたいものだったんだな」
見つけた“メモ”と、過去の自分
療養中、ノートPCの脇に何気なく置かれた1枚の付箋が、ふと視界に入った。
〈朝のランニング、また始める〉
それは、半年前、忙しさの合間に「自分を取り戻すために」と思いつきで書いた“やりたいことリスト”の一部だった。
他にも
「息子と公園に行く」
「マラソン大会に出る」
「週末にお城巡りの写真を撮る」
といった項目が並んでいる。
当時の自分は、時間ができたら、体調が整ったら…と漠然と先延ばしにしていたことばかり。
書いたことすら忘れていたそのメモが、今はなぜかやけに心に刺さる。
思わず付箋を手に取り、もう一度まじまじと読み返した。
「治ったら、もう一回チャレンジしてみようかな…」
それは決意というほど強いものではなかったが、どこかで静かに芽生えた「希望」のようなものだった。
体はまだ本調子ではない。でも、この一枚の付箋が、心の深いところで何かをそっと動かしていた。
整体で出会った新しい視点
リモートワーク仲間に紹介されて訪れたのが、横浜市中区にあるもとまち整体院だった。
「この腰の痛み、たぶん腰そのものより、周囲の筋肉の硬さが原因かもしれませんね」
そして始まったのは、手技によるトリガーポイントへのアプローチだった。
施術では、腰の周囲だけでなく、太ももやお尻、背中といった広範囲の筋肉にゆっくりとアプローチが加えられていった。深部に溜まったコリのようなものをひとつひとつ見つけ出し、じっくりと丁寧にゆるめていくような施術だった。
初回の施術中、院長から言われたある言葉が、今でも村瀬さんの印象に残っている。
「ただ安静にして寝ているだけでは、回復までによけいに時間がかかりますよ。筋肉は動かさないと固まってしまいます。できる範囲で、これまでの日常生活に少しずつ戻していくことが大切です」
その言葉には、ただ痛みを抑えるのではなく、“回復のスイッチ”を自分の生活の中から入れていくという意識が込められていた。
実際、その通りだった。無理のない範囲で体を動かしていくことで、筋肉の緊張がやわらぎ、痛みの引きも早くなっていった。
さらに、動けるということが、精神的にも前向きな変化を生み出していったのだった。
「ここ、響きますね…」 「でも終わった後、なんだか腰が軽くなった気がする…」
数回通ううちに、痛みは引くだけでなく、立ち上がる・歩くといった日常動作がずいぶん楽になっていた。
合わせて、自宅でできるストレッチや、デスク環境の見直しもアドバイスされた。
“走っている自分”をイメージする日々
ある日、ふと思い出したのは、あの「やりたいことリスト」だった。
ランニング、息子と公園、旅先での散歩──。
その文字が、以前よりも少しだけ現実味を帯びて見えてきた。
整体からの帰り道、村瀬さんはふと気が向いて、近所の遊歩道を少し遠回りして歩いてみた。
歩幅はまだ小さく、足取りも慎重だったが、風の感触や街の音が以前よりも鮮やかに感じられた。
「もしこれが走れるようになったら、朝日を浴びながら音楽を聴いて…」
そんなイメージが、心の中でふわっと広がった。思わず口元がゆるむ。
夜、寝る前には、その“未来の自分”を少しだけリアルに思い浮かべるようになっていた。それは、夢ではなく、少し先にいる自分と向き合う小さな習慣だった。
そして、走り出した朝
あれから3ヶ月。
もとまち整体院で教わったストレッチやセルフケアを続けながら、少しずつ体を慣らしていった。
最初は短い距離をゆっくり歩くだけ。それでも、日々の積み重ねは確実に村瀬さんの身体を変えていった。
ウォーキングから、軽いジョギングへ。
筋肉の張りや呼吸のリズムも、少しずつ戻ってきたようだった。
そしてある朝、公園の木漏れ日の中で、軽く汗をかきながら走っている自分にふと気づく。
「呼吸はまだ重いけど…でも足はちゃんと動いてる。体が自分の意思で前へ進んでくれるって、こんなに嬉しいことだったんだな」
その瞬間、村瀬さんの脳裏に、あのぎっくり腰で動けなかった朝がよみがえった。
「…あれがなかったら、こうして走ろうなんて思わなかったかもしれないな」
心の中でそうつぶやきながら、彼は歩幅を少し広げた。
さいごに:
突然の痛みは、確かに苦しくて、怖くて、不安だ。
立ち上がることも、寝返りを打つことさえも痛みに妨げられ、普段通りの生活がまるで遠くに感じられる。
日常の一つひとつの動作が、「当たり前ではなかった」と気づかせてくれる。
でもその痛みは、ときに人生の「向きを変えるきっかけ」になることがある。
無理をしていたこと、無視してきた身体のサイン、自分自身へのケアの不足──それらに静かに気づかせてくれる時間になるのだ。
身体の声に耳を澄ませ、未来の自分を想像すること。
できないことばかりを数えるのではなく、「これからどうなりたいか」に目を向けてみる。
それが、“今できること”を前向きに見つけ出す力につながっていく。
村瀬さんは今、あのぎっくり腰のことを「感謝すべき出来事」とまで言う。
なぜなら、あの痛みがあったからこそ、彼は人生の優先順位を見直し、自分を取り戻す道を歩き始めることができた。
それは、まぎれもなく“未来を取り戻す第一歩”だったから。
※施術効果には個人差があります。
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