『春は、わたしを立ち止まらせた――43歳、腰からのサイン(登場人物:佐藤奈緒)』

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春になると、いつもより少し外を歩きたくなる。

薄手のコートを羽織って、お気に入りのカフェまで遠回りしてみたり、子どもと一緒に花壇の花を眺めながら公園に寄り道したり。

空気がゆるみ、気持ちも少しだけ軽やかになる――そんな季節。

けれど、今年の春は、なんだか様子が違った。

「腰が……重い」

 

43歳、2児の母・佐藤奈緒は、朝、顔を洗おうと前かがみになったときにピリッと痛みを感じた。

 

買い物袋を持ち上げた瞬間にもズンッとした鈍い違和感。 仕事中に長く座ったあと、立ち上がるたびに、どこかがギクッとする。

 

 

最初は「たまたま疲れてるのかも」と思っていたけれど、気づけば3週間。

ストレッチをしても、一時的には楽になるけど、すぐにまた重だるさが戻ってくる。

朝起きたときに腰に違和感を感じる日が続き、「このままひどくなるんじゃないか」と、なんとなく不安になる。

 

 

 

「年齢のせいかな」

「運動不足もあるし」

「ずっと座ってるから仕方ないか」

 

 

そんなふうに、いくつか理由を並べて、自分を納得させていた。

でも、どこかで納得しきれていなかった。

 

 

 

そんなとき、ふとSNSで流れてきた言葉に奈緒の目が止まった。

 

 

「腰痛の原因は、実は腰にないことが多いんです。筋肉の深い部分にできる“トリガーポイント”が、痛みの引き金になることも」

 

 

トリガーポイント――?

なんとなく聞き覚えはあるけれど、正直ちゃんと理解していなかった。

 

調べてみると、どうやら筋肉にできる“しこり”のようなものらしい。

 

その部分が過敏になっていて、触れると痛みが出たり、場合によっては腰とは違う場所にまで痛みを飛ばすことがあるのだとか。

 

 

 

たとえば、お尻や太ももの裏の筋肉にできたトリガーポイントが、腰の奥の痛みとして感じられることもあるそうだ。

 

長年の姿勢のクセやデスクワークによる筋肉の緊張、そして疲れやストレス。 それらが積み重なることで、筋肉の奥深くに“引き金”のような反応点ができてしまうという。

 

 

 

「もしかして、これ……私のこと?」

 

 

静かに、でもハッキリと、奈緒はそう思った。

 

 

ネットで見つけた整体院のページを開き、予約フォームに名前を打ち込む手が、少しだけ震えていた。

 

初めての場所。

知らない先生。

けれど、今のこの状態をなんとかしたいという気持ちの方が勝っていた。

 

 

 

実際に行ってみると、思っていたよりずっと安心できる雰囲気だった。

先生は柔らかい声で丁寧に話を聞いてくれて、普段の姿勢や生活スタイルのことまでしっかりヒアリングしてくれた。

 

 

 

「腰そのものじゃなく、お尻と太ももの筋肉がガチガチですね。ここに“トリガーポイント”ができていると、腰に痛みが出やすいんですよ」

 

 

それを聞いて、「なるほど」と奈緒は納得した。

日常の中で、こんなにも筋肉に負担がかかっていたなんて、正直思ってもみなかった。

先生は、体の使い方のクセや、呼吸の浅さも関係していることを優しく教えてくれた。

 

 

器具ではなく手で、筋肉を深くじっくりとほぐされていくうちに、固くなっていた体の奥がゆるみ、同時に心までほぐれていくような感覚があった。

普段、自分の体に意識を向けることなんてあまりなかったけれど、この時間だけは「わたしの体の声」にちゃんと耳を澄ませているような気がした。

 

 

 

施術が終わったあと、立ち上がった瞬間に「あれ?」と思うほど、腰がふわっと軽くなっていた。

 

重りを外したような感覚。 目線が少しだけ高くなったような、そんな気すらした。

 

 

――たった一度のケアで、こんなに違うなんて。

 

 

「痛くなってから」じゃなくて、「痛くなる前に整える」。

その言葉の意味が、やっと実感として理解できた。

 

 

 

43歳の春。 “歳だから”と見過ごしかけた小さなサインが、 奈緒にとって、自分の体とちゃんと向き合うきっかけになった。

 

 

これからは、自分の体に少しやさしくしてあげよう。 忙しさにかまけて後回しにしてきたけれど、体はずっと、静かにメッセージを送り続けてくれていたのかもしれない。

 

 

季節の変わり目に、ふと立ち止まった奈緒。 あの腰の痛みが、静かに、でも確かに教えてくれた気がする。